日本に生まれて良かったと思える言葉と絵「富士山うたごよみ」

「富士山うたごよみ」俵万智 短歌・文 U・G・サトー 絵(福音館書店)
対象:子ども~おとなまで(本にある通り)

表紙のユニークさと、俵万智さんの名前があったので手に取りました。U・G・サトーさんが富士山をいろんなかたちで描かれています。富士山を何かとくっつけて描いたり、メタファーとして富士山を描いたりしてインパクトがあります。そこに暦と俵万智さんの短歌と文がはいっています。

日本に生まれた、日本で暮らす素晴らしさというのは、やはり四季折々の顔があることです。この絵本はその顔を日本を代表する富士山で現しています。四季というのは本来はカレンダーで決めるものではなく、われわれの感覚が決めるものなのです。

3月21日は春分の日です。春分というのは昼と夜の長さが同じになるということですが、明るさ、暗さがだいたい同じになるということです。昔の人たちは、別に日照時間をはかっているわけではなく、なんとなく「日が長くなってきたな」とか、「夜明けが早いな」とかを感じていたのです。当然、3月21日になると自動的に春分がおとずれるというわけではなく、そのころ、そのあたりが春分になるということです。

日本の四季の捉え方というのは、数字でとらえる、アタマで考えるものではなく、肌でとらえたり、感覚でとらえるものです。だから、おおよそのものであり、時間的な明確な線引きをしていませんでした。それが日本人の感覚であり、むかしの人はそれを暮らしの知恵としてきました。昔の人の方が時間におおらかだったと言えます。

そして、この本はその感覚に訴えます。五感の視覚や聴覚(短歌の韻)にしみわたります。そして文もいいのです。俵万智さんが書かれていますが、さすが俵万智さん、四季折々の変化、暦と出会うのを楽しみにさせてくれるような文になっています。

未就学児童は、まだ短歌の意味は分かりません。富士山の絵を「きれい」「おもしろい」と見ていますが、いつかその短歌の意味も分かるようになってほしいと、その時が来るまで持っておくべき本でしょう。

私がもっとも好きなのは、最後のページ。

「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ

子どもたちも、いつかそんな人に出会えるといいと願います。

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