しくみ化のしかた。

「しくみ」。ビジネスでよく聞く言葉ですが、実は人によって指していることが違う、意味することが違うなど、多様な使い方をされる言葉です。使われたとたん、なんだかわかったようになる不思議な言葉の代表格でもあります。この間も「しくみで売る」なんて発言を聞きましたが、いったい何の商品をどういう売り方をするのか具体性がまったく見えてこない、それなのに聞いてる方は「大きくしかけて売るのはいい」なんて言ってる、不思議な光景を見ました。

さて、このしくみですが、具体的なものではありません。私は以下のようにとらえています。

  • 仕事が属人化しないように、誰がやっても同じ成果が出るような仕事のやり方
  • 誰がやっても同じ成果を出すために、極力仕事の標準化を図るもの

会社にいるとよくわかりますが、仕事の成果は人によって違います。同じ仕事を頼んでもAさんとBさんでは、雲泥の差があるなんてことは多々あります。そして、結果的にはAさんに仕事の依頼が集中します。そして、Aさんがいなくなると急にその仕事ができる人がいなくなる、といった事態が起こりうるのです。そうなると会社にとって、けっして効率のよいものではありません。そこでAさんがやってもBさんがやっても同じような成果が出るための仕事のやり方をつくるのがしくみです。言い方を変えれば、「仕事のできる人がいなくなっても仕事がまわるようにする仕事の方法を共有する」ということです。

私も営業現場にいましたので、しくみのうえで仕事をしてきました。たとえば、顧客情報の共有のために営業担当者に訪問記録を書かせて提出させるなんていうものは、しくみのひとつです。営業担当者には異動がありますから、顧客情報の共有というしくみがあることで、引継ぎがあっても顧客情報や商談の進捗を分かりやすく把握することができます。また、営業担当者の不在時、顧客から会社に問い合わせがあった場合、誰でも顧客対応ができるようになります。と、しくみの本来の目的を書けば美しいのですが、実際にはしくみはうまくは機能していません。営業担当者によって訪問記録の書く内容、記録の量も差が出ます。「お客様の反応は上々」なんて書いてあっても、お客様は検討段階なのか、商品に関心を示しただけなのか、さっぱりわかりません。そして、業を煮やしたマネジャーがそのことを部下である営業担当者にヒアリングをしてより詳しく聞くなんてことは営業現場ではよくあります。

そして面白いことに、しくみを機能させるために訪問記録作成マニュアルなど、より同じ記録成果が出せるようなものが準備されます。そして、そのマニュアルに沿って作成していくとおそろしく時間がかかったり、報告しようにも営業担当者が記録をつけようとすると書けない情報(=つまり顧客から引き出せていない情報)などが出てきたりして、営業担当者が作文をするというおかしな使い方(=推測でものを書いたり、ひどいときには事実でないことが書かれる)がされるようになって訪問記録マニュアルは形骸化していきます。笑い話のようですが、しくみ化に向けて学ぶべき点が含まれています。

しくみ化のしかたで重要な点は、最低限守らなければならないことを一つ二つ決めておくことだと思います。しくみ化のためにルールやマニュアルを増やしては、かえって本来の目的以外のことで時間を費やすようになります。また、ルールやマニュアルを増やして喜ぶ人などはいません。やはり余計なことは増やさずにしくみ化したいものです。結局、上記の営業現場も「訪問記録はその日のうちに書くこと」「失注情報、顧客のクレームは必ず書くこと」の2つのルールだけにしました。すると訪問記録ももとのように書かれるようになりました。相変わらず、情報量の少ない記録も相変わらず出てきますが、それはマネジャーが部下に聞けばいいのです。

「人間は機械やロボットではない、人間は人によって違う」「人間は『あれやれ、これやれ』と強制されるとやる気をなくす」。しくみ化をする場合は、このあたりの人間観も忘れてはいけないのではないでしょうか。

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