平仮名あるのにわざわざ片仮名にする理由「かたかな絵本アイウエオ」

あとがきを楽しむ本です。

「かたかな絵本アイウエオ」作・絵: 五味 太郎 出版社: 岩崎書店
対象:4歳から 発行日: 1980年

子どもが平仮名を読めるようになると、壁にぶつかります。漢字と片仮名の壁です。漢字は振り仮名があるのでなんとか読めるのですが、片仮名だけはいかんともしがたい、といった感じです。そこで子どもから「片仮名を知りたい」と言われるようになりました。

片仮名覚えるより、アルファベットを覚えたほうがこれからの子どもにはいいのでは?

と思いましたが、やはり片仮名をしならないとやはり不便です。街でよく見かける“クリーニング”や“ラーメン”の看板も読めません。それに日本文学を支えてきたのは真名と仮名です。平仮名ではありません。やはり仮名を抜きに日本は語れません。

さて、今回の本を渡したら、平仮名と対(つい)に片仮名があります。平仮名が読めるので、勝手に片仮名も理解してくれます。いちいち字を教える必要がありません。これは楽です。そして、絵本を辞書代わりにして、自分の名前を調べて、片仮名で書く練習をしています。友達の名前、親の名前を書きながら、新たな発見を見つけていきます。

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「あっ、”へ”は平仮名と片仮名が一緒だ!」とか、傍で聞いていると結構新鮮な驚きです。そして「なぜ“ロ”が四角なのか?」など、片仮名の成り立ちまで質問してきます。さすがに知りません。やはり元は漢字ですが、漢字を知らない人に説明はできません。

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そして、寝る前には読んでほしいと言われ、絵本を読みます。カタカタ1文字に言葉が2つ紹介されて、1Pにその絵があります。たとえば、ナはナンバーとナプキンとか、ナンバーの入ったナプキンをつけた子どもたちの絵が描かれています。スカートをはいたスーパーマンとかが描かれています。とうぜん、子どもは一つ一つ言葉に対する絵を確認してくきますが、

実に説明しにくい。

というのがこの絵本の特徴です。1つの絵に2つの言葉が重なっていることが多いのです。先ほどの数字入りのナプキンのように、ナンバーもナプキンも同じものを指すことになるので子どもは混乱します。五味先生も“ひとひねりした”と言われていますが、少しひねりすぎです。

ですが、この本のすばらしいのはあとがきです。そもそも、私たちには平仮名という便利な文字があるのに、あえて片仮名を使用しなくてはならないか?この問いに見事に五味先生がこたえてくれます。

icecreamを「あいすくりぃむ」と書けばすむところを、わざわざ「アイスクリーム」ともうひとつの表音文字を用いることです。(中略)昔からこの国に「あいすくりぃむ」というものがあったのではなく、外国からicecreamというものがやってきた。その時、こちらには、それを受け入れる味覚の文化があった。そこでいわゆる、カルチャーショックが起こったのです。つまり文化の衝突が起こったという事実を記念するために「アイスクリーム」とかたかな表記するのです。

そして五味先生は、これは異なる文化を確かに受け入れさせてもらったということで

尊敬をこめて片仮名を利用する。

と言われています。日本にある片仮名をもう一度よく見てください。それは、まぎれものなく、他の文化との融合を意味するものが多いのです。あくまでも五味先生の解釈ですが、結構納得させられる話です。さすが絵本作家、言葉に対するこだわりがうかがえます。

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