この絵本でわくわく、そわそわするようになれば、ストーリー構造がわかるということです。
「あらしのよるに」作: きむら ゆういち 絵: あべ 弘士 出版社: 講談社
対象:5歳から 発行日: 2000年06月
幼児を笑わせようとすれば、直接幼児が喜びそうなことを言えばいいのです。“うんこ”とか”しっこ”とか、これだけで幼児はキャッキャ言って笑ってくれます。ただ、絵本を読んで笑わせるのは実は至難の業です。面白そうに読むのは読み手のテクニックですが、本自体、ストーリー自体が面白くないとなかなか笑いません。
そういう意味では、この本はストーリー自体が、聞き手を笑わせる、あるいはそわそわさせる要素を含んでいるので評価されるべき本です。実際に評価もされています。
あらしのよるに小屋に逃げ込んだヤギ、そのあとに足を怪我したオオカミが逃げ込みます。暗闇でお互いが見えないので、ヤギはオオカミをヤギと思い、オオカミはヤギをオオカミだと勘違いしています。実際はオオカミはヤギが大好物なのです。もし、本当のことがわかれば、どなることやら・・・という含みでストーリーが展開します。
お互いが相手を同じ動物だという前提で会話を進めます。固定観念があるものですから、相手の会話から得られる自分の都合のよい情報しか拾いません。また、偶然にもそれすれ違うことなく会話が成り立ってしまいます。でもお互いのアタマの中のイメージはそれぞれがオオカミの世界のこと、ヤギの世界のことです。でも相手には自分と同じ世界のこととして受け取られるのです。このあたりが第三者には滑稽です。当人たちは事情を知らず、それを見ている第三者が本当のことを知っていて笑うというのは喜劇の構造です。
それを聴いている子どもが理解しているとしたら、喜劇が分かるということ、つまりストーリーの持つ面白さが分かるということです。
また、この本のすばらしいところは、お互いが弱みを告白しあって、お互いが共感を覚え、ほのかな友情が芽生えるところです。もし、お互いが誰かわかっても、オオカミはヤギをがぶりとなるでしょうか?ストーリーはそこまでの結末は描いていません。お互いが次に会う約束をして終わります。その後のストーリーも想像させる楽しみを聞き手に与えているのです。
あべ弘士先生の描く動物もお話に合っていますが、この本はやはりストーリーが秀でています。
ズレをあえて楽しませる。ことを教えてくれる本です。