ピッチはナンパに学べ。

ピッチとは、エレベータの中で起業家が投資家を口説き落として、資金提供を得たことを発端にしています。いわば、短時間で相手を説得して、相手を動かすプレゼンの技術です。

あの数々のビジネス書をヒットさせたダニエル・ピンクは「人を動かす、新たな3原則 売らないセールスで、誰もが成功する!」(講談社)のなかで、これからは誰もがセールスマンになる、つまりは誰もが売り込みが必要になる時代になることを主張しており、そのスキルの一つのにピッチをあげています。たしかに売り込みにおいて、投資家に限らず、みんな忙しいので短い時間で売ることは今の時代にあったセールスのあり方です。

私も一時ピッチ研究をしていたことがあり、ピッチをしているイベントに良く出向きました。たいていは起業家がピッチをして、資金提供を募るイベントが多かったのですが、ピッチを観察していくと、いくつかのことに気がつきました。

短いからこそ本質にたどりつく。

ピッチは余計なことは言わずに、いかに短時間で相手に自分の伝えたいこと理解してもらうかにかかっています。そのためには話の枝葉はそいでそいでそぎ落とします。そうすると幹だけが残ります。それが本質です。

情動や情緒に訴える演出も必要。

TEDなんか見ていると良くわかるのですが、論理面だけでなく、情動面に訴えるプレゼンテーションはが短い時間では効果的です。ましてやピッチはTEDよりも短いので(TEDは3分~18分、ピッチは短いもので30秒)、より人々に印象に残すことが必要であり、それが情緒や感情に訴えかける演出なのです。

人となりが出る。

短くなって、かつ人を動かすためには、より欲求的なものをPRしていかなくてはいけません。それがその人の想いやその人自身のこととつながってくるのです。短くなればなるほど、ごまかしがきかない自分そのものを出さなくてはいけません。また自分そのものが出るから、ピッチは面白いのであって、エンターテーメント的な要素を含むのかもしれません。

私もピッチのうまい人をずっと探していました。それならピッチを職業としている人を探そうとたどり着いた仕事(というか営業、というか人の行動というか)が2つありました。ひとつはキャッチです。これは私がよく誘われるので実感としてあるのですが、呼び込みがうまい人はピッチができています。

そしてもう一つがナンパです。渋谷あたりのナンパを見ていると、女性を「えっ」と振り向かせるのに長けたナンパ師がいます。この女性を惹きつけるテクニックは神業です。

そしてこの2つの共通点でいうと、ピッチだけでなく、相手のことを一瞬でするどく観察して、相手に合わせた対応ができいるのです。ダニエル・ピンクはこのことを“キャッチ”と言いました。そして以下のようなことを言っています。

良いピッチャは―、良いキャッチャーでもある。

要はピッチも相手あってのコミュニケーションなんです。こちらから伝えたいことを投げかけ、相手の反応を読んで、相手の反応によって投げかける球を変えていく。まさにピッチャであり、ときにキャッチャーであるのです。

さて、嬉しいお知らせがあります。渋谷最強ピッチャー、ナンパのテクニックをあますなく披露した渋谷で働く営業マンなべおつさんのブログが本になりました。ナンパのプロセスがセリフだけで書いてあるため臨場感があるのと、登場人物の機微がやたらと伝わってきます。これを読んでいるとナンパも人を動かす技術であることがよく分かります。しかも、関心のない人をいかに振り向かせなければいけないので説得の難易度は高いです。

私はこのブログの読者だったんですが、一時更新がとまって残念!と思っていたら、立派な本になっていました。復活したブログ読み返して驚かされましたが、なべおつさん、このコンテンツをビジネスの視点で考えられていました。「文章×イラスト×ナンパで自分の勝てる領域を探す」なんて、これ自体が自分のビジネスとしてのドメインを定義していることです。そして、何よりもすごいと思ったのが、あのどこか愛嬌あふれるイラストが自作だったということです。できれば書籍もあのイラストのままいってほしかったです。ナンパこそ説得のノウハウが詰まっているので、ぜひ読んでみてください。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加