落語とは知恵の宝庫「はつてんじん 初天神」

落語絵本3 はつてんじん
作・絵: 川端 誠
出版社: クレヨンハウス
発行日: 1996年
対象 : 5歳から

落語とは清く貧しく、そしてちょっとずるく生きている庶民の暮らしが描かれていると言いますが、この本を読めばそれがどういったことかがよくわかります。

まず、最初に本を開くと「はつてんじんとは」何かが説明されます。そうです。天神さんとは天満宮で、菅原道真をまつっているんですね。初めてお参りするか初天神。25日が天神さまの縁日なんだそうです。いやー、恥ずかしながら知りませんでした。落語の始まりはマクラだけでなくちょっとしたうんちくも必要です。

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「おーい、羽織だしてくれ」

といったセリフから始まります。落語の出だしのセリフでもよくありますよね。

そして、だんなさんとおかみさんのセリフのやりとりが続きます。初天神にだんなさんが行くので、一緒に子どもの金坊を連れていってほしいとお願いされます。だんなさんとおかみさんのセリフだけなんですが、結構リズムがあっていて声に出して読むと、読み手が落語家になったような気分が味わえます。そして、とうちゃんは金坊を連れて行くと面倒くさいので一人で行くといいましたが、金坊が出てきて、とうちゃんと一緒にお初天神に連れていきます。

「あれ買って、これ買ってと言ってはダメだぞ」ととうちゃんは金坊を諭します。

すると金坊は、分かったといいますが、しかし平気で綿菓子を買ってくれと言います。「あれやこれじゃないから、いいだろ」という理屈をつけてきます。子どもながら、この屁理屈を成立させるには知恵があるということです。今の子どもたちにも金坊のようにたくましく育ってほしいものです。とうちゃんの返しもさるもの「あれはどくだからだめ」と対抗します。もう知恵の応酬としか言いようがありません。

そして、お詣りで金坊は、とうちゃんを持ち上げて、持ち上げて、そして凧を買わせます。おだてて、おだてて、その気にさせる。人の購買心理をたくみについた知恵です。

折れたとうちゃんは凧を買うことになります。今度は凧屋から「大きい糸巻きはいかがですか」「替えの糸はいかがですか」とより高いものを買わせたり、オプションをつけていろいろ買わせようとする凧屋の攻勢にあってしまいます。抜け目がない江戸庶民の生き方を表しています。とうちゃんは帰りに一杯やってかえろうと思って、とってあったお金を使う羽目になります。登場人物は酒に目がない。これも落語の特徴です。

そして、凧をあげることに夢中になったとうちゃんは、金坊の凧をとりあげて自分であげて楽しんでしまいます。

金坊の「やれやれ、とうちゃんなんかつれてくるんじゃなかった」と、オチになります。

これまで落語絵本を読んできましたが、この「はつてんじん」はストーリーの構成といい、登場人物のやりとりといい、お約束といいすべて落語っぽい。落語とはこういうもんだ、とつかんでいただくにはもってこいの作品です。読んだ後は鳴り物がなって幕が下がるシーンが自然と目に浮かびます。

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