名著だと思います。
「ちいさいおうち」(作・絵) バージニア・リー・バートン(訳) 石井 桃子(岩波書店)
対象:5歳から 発行日: 1965年12月
私、地方出身者です。地方といっても、100万都市なので田舎ではありません。ただ、少し街を離れると山や畑の風景が広がります。そんな風景を見ているとつくづく田舎だなぁーなんて思います。そして、その地方都市を脱出すべく就職で東京に出てきましたが、いきなり会社に転勤を命じられ、配属されたところが地元よりもさらに地方・・・「いったい何のために東京に出てきたんだろう?」と思いました。
地方で役所まわりなんかしていますと、まさにのどかな田んぼと畑の風景が続きます。車を運転しながら、「こんなにのんびりしていていいの、俺は?」なんて思う日々が多々ありました。そして、昼食に入った田舎のローサイドの定食屋ではうどん・ラーメン、すしのアラカルトなメニューがあり、統一感はまったくありません。しかも割烹着を着たおばちゃんがゆっくりと定食を出してくれます。また、海辺の道なんか走っても、サファーは1人もいません。漁船が並んでいます。しかも、干からびたヒトデなんかが落ちたりして非常に生活感のある海が続きます。田舎は非常に時間がゆっくりしてるんです。
そんな生活を送りながら、「このままじゃまずいんじゃないの?はやく地方脱出しなきゃ!」なんて焦ります。そりゃ、当時20代の若者ですから、向上心もありますし、刺激もほしいです。それには地方は物足らなさ過ぎました。
ようやく念願の東京の生活に戻り、働き始めます。やはり情報量も多い、人も多い東京は刺激的な街であることに気づかされます。ただ、年を重ねてきて、また地方に行って、再び東京に戻ってくると、思うことがあります。
東京って、なんだか疲れます・・・
そりゃあ、そうです。年齢とともに体力が落ちてきます。そして郊外の家なんか住もうものなら、通勤時間は2時間コースです。そして、高層ビルが立ち並ぶオフィスに到着して、人がセカセカしているオフィスで働きます。仕事時間も長いです。そうなってくると、思うことがあります。
これが自分の望んだ働き方か?
そして、夏季休暇なんかがとれれば、一週間ばかりのんびり緑に囲まれた場所や海で過ごして鋭気を養い、そしてもとの慌ただしい日々に戻ります。地方移住なんかの記事があったりすると、「地方もいいよなぁー、でも生活が成り立つかな・・・」なんてぶつぶつ言ったりします。
長くなりましたが、今回の本は、都市化への警鐘というメッセージも読み取れるのですが、どちらかというと
田舎出身者の葛藤。
をちいさいうちを通じて現しているように思えます。この絵本で都会の描写に対して、うんざりした気持ちになるのであれば田舎に帰ったほうがいい。反対に田舎の風景を退屈だと思うなら都会に出た方がいい。そんな心境にもなります。この絵本1965年に描かれた本ですが、あれから50年、私たちの住む地域は都市と田舎の二項対立だけでは語ることができません。都市は環境の問題を依然と抱え、田舎は消滅の危機に瀕しています。バージニア・リー・バートンがまだ生存していたら、今の世界の人々の顔をどのように描くでしょうか?