持続可能性の暮らし方がある「にぐるまひいて」

人々の生活と 自然のために

表紙をめくると、このようなメッセージが書かれています。本を読んでいくとその意味が分かります。

にぐるま ひいて
作: ドナルド・ホール
絵: バーバラ・クーニー
訳: もきかずこ
出版社: ほるぷ出版
発行日: 1980年
対象年齢:4歳から

かつてのアメリカの田舎の暮らしぶりが描かれています。ある家族の1年の物語です。とうさんが羊の毛を刈って、その毛でかあさんがショールを編みます、娘は糸で指なしてぶくろを編みます。息子はしらかばの木でほうきをつくります。それに父さんが切り出した屋根板のたばが家族の工芸品になります。それに加えて、かぶ、じゃがいも、りんご、樹液からとった蜜などの農産品を荷車に積んで、牛と一緒に父さんは市場に売りにいきます。生産物をすべて市場で売り切り、そして荷車と牛も売ってお金に換え、工芸品や農産物を生産するための道具、なべや針、ナイフ、そして嗜好品のはっかのキャンディーを買って父さんはうちに帰ってきます。

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そして、また1年かけてこの家族は同じもをつくろうとする姿で物語は終わります。おそらくこの家族は同じように暮らしていくのでしょう。

この絵本から何が得られるか。

人間の暮らしとは変化に富むものではなく、同じことの繰り返しであるということ。

そして、生きていくためには生産物をお金に換えることができる、生業(ナリワイ)を持たなければいけないということ。しかもそのナリワイもこの家族のように農業、酪農、家内制手工業など多様な手段があった方がよいということ。

何よりもすばらしいのは、この家族の暮らしは自然への負担が少ないということです。自然の恵みを少し分けいただいて、生産物に変えています。そして、また翌年も同じことができるようにしています。

これが少しでも「稼いでやろう」「効率的に生産量を増やしてやろう」となったところで、この自然に負担のかからない持続可能な暮らしは終わりをむかえるのでしょう。

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本書のカバーにはこのように書かれています。

このやさしい物語は、もう帰らない古き良き時代のアメリカの暮らしぶりをしのばせてくれます。

牧歌的な風景や暮らしに浸るのではなく、実は私たちの未来への警鐘ともいえる作品です。絵本って本当に味わい深いです。

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