でんしゃがまいります (こどものとも700号記念コレクション20)
秋山 とも子 (著)
発行:2014/4
出版社:福音館書店
対象:4歳から
「でんしゃがまいります」という竹中直人さんがうたう歌があります。結構耳について離れません。
電車が来ます
電車がまいります
というホームでよく聞く駅員さんのアナウンスを繰り返して歌詞にしたものです。ちなみに小鉄の間では結構、人気がある歌です。
さて、その歌詞があってか同じタイトルの絵本を発見。この絵本は新宿駅の5番、6番ホームを舞台にしています。特定のホームに特化した絵本は意外と珍しいものです。中央線の電車も全面オレンジで多少古さを感じます。描かれている人も昭和の人です。
始発電車から時系列で追っています。7時になると満員電車になります。たくさんの人たちのあわただしい様子が事細かに描かれています。また、ぞれぞれの人が
のせてーーー!
ていきおちましたよ
おーいー、きむら
なんでこんなにひとがおおいんだ
とか、それぞれセリフを発しているのがユニークです。もちろん登場人物同士のつながりはありません。線路に落ちた靴を駅員さんがどのように拾うか、なんてシーンもあります。そして、昼時には真横の絵でホームをとらえます。相変わらず登場人物は各々好き勝手なセリフをしゃべっています。
あとこの本の良いのが読み聞かせのときに、駅員さんのセリフが分かれて表示されています。
「まもなく、5ばんせんより 11じ25ふんはつ こうふゆき はっしゃします」
みたいな感じのものが何か所かあります。これを電車好きの子どもに読ませると大喜びです。絵本も一方的に聞かせるのではなく、子どもにも参加させること。出番と役割を与えることが大切であると気づかされます。
(写真はJR大崎駅です)
そして終点の新宿駅に到着した電車の中のシーン。これは上から映しています(描いています)。ゴミを拾う駅員さん、眠っている乗客を起こす駅員さん、そのような光景が描かれいます。今度は駅員さんの事務所のなかの様子、それだけでなく清掃スタッフの休憩の様子。そしてふと一息つく間もなく、夕刻のラッシュの時間。ホームには休みがありません。夜のホーム、最終電車に乗り込む人たち、そして最終電車が出た後の清掃の様子。
ホームの様子が詳しく、そして繊細に書かれています。
よくもここまで細かく描けるもんだと、感心するくらいです。それもそのはず、この絵本は1987年から88年まで2年間取材をして、その後2年かけて描かれています。時代背景が約30年前なので多少絵は古いですが、そんなものを吹き飛ばすくらいの取材(観察)の熱が感じられる絵本です。
観察は場所をしぼって観察したほうが効果は出やすい。そして、徹底しつくされた観察の記録は聞くもの、見るものを驚愕させる。
そんなことを感じさせる本でした。子どもに伝えたいのは、作者のここまでの徹底ぶりであり、仕事の姿勢です。福音館書店さんが「こどものとも700号記念コレクション」として、この本を復刊された意味が分かるような気がします。
読み聞かせ動画もありますが、やはりこの本の魅力は細かさ、それは本を目を凝らして見て楽しんでもらいたいものです。