積極的傾聴、研修でよくやりますよね。相手の表面を聴くのではなく、相手そのものを受け止めて聴く姿勢、これが積極的傾聴です。研修ですと、上司役の人が部下役の人の話を「うんうん」なんて否定をせずに聴き続ける。聴かれた部下役の人は終わった後に「自分の立場をよく分かって聴いてくれたので、もっと話してみようと思いました」なんて感想を言ったりすることがあります。
このトレーニングで伝えたいことは、相手の話は全身全霊を傾けて聴くこと。そんな話をすると、「あー、今まで自分は人の話をそういう姿勢で聞いていなかった。いかんいかん」なんて反省があります。
先日、演劇のトレーニングで同じように積極的傾聴をやってみました。目の前の相手をすべて受け止めて、話を真剣に聞く。それだけです。
- 椅子と椅子を向き合ってスタンバイします
- 聞き役と話し役を決めます
- 話し役は最近あったことを話します
- 時間は90秒
これだけです。目の前のすべてを受け入れようとすると、耳だけでなく、目で相手を見て、相手の姿をとらえ、一挙手一投足を逃さないように相手を見つめます。加えて、相手が持っている感情や雰囲気も受け入れようとします。そのためには「感覚」も相手に向けなければいけません。五感のすべて視覚、聴覚、嗅覚、あと味覚・触覚はなににしろ、相手と離れながらも相手をとらえようとする離れた触覚を働かせなかければいけません。
相手の方のテーマは食欲不振。
最近、いかに食欲がないか、ということについて語ってくれます。
正直、目の前の人は赤の他人。私にとっては、どーでもいい話です。でも聴く。聴き続けます。
相手の話を聴こう、聴こうとすると、そのどーでもいい話を話す相手に関心を持ったり、「そりゃあ大変ですね」なんて感情移入したりしてきます。でも、やっぱり、たまにどーでもいい話が続くわけで、その時には目の前の相手とふわっと離れてしまうことがあります。相手と自分とつながっていた糸が切れる感じに似ています。
「こりゃあイカン!」と、また話を聴こうと戻ってくるのです。こんなことの繰り返しです。あとで、振り返りをしたのですが、この糸が切れる瞬間は自分だけでなく、話している相手も分かっているのです。別に「今、私、あなたの話を一瞬聞いてませんでした」と相手に言ったわけではないのですが、それが伝わるのは不思議なことです。
よくあるシチュエーションとして、カフェのオープンテラスで恋人が食事をして、彼女は彼に最近あった他愛もない話をして、それを彼は頷いて聞いている。そこへ目の前に絶世の美人が道路を歩いているのに、彼は思わず目が釘付け。その瞬間、彼女は「ちょっと、どこ見てるのよ!」となってしまう。そんなシチュエーションに極めて近いです。
90秒にしろ、自分のことはさて置き、相手に没頭して聴くことは、実は大変疲れることです。90秒なんてとてもではないですが、持ちません。持ったとしてもクタクタです。だから、話を聴かないか、自分のことを考えていた方がはるかに楽なのです。おもしろいことに、相手の話を積極的に聴くと、相手のことを聴いている人に話し手は安心感や好意を抱きます。自分を受け入れてくれてるからです。
相手を受け入れて必死で聴いているその人が好ましい。その人に引き寄せられる。聴くこと、相手を受け入れることで影響力を発揮できるのです。舞台なんかで、「どうも」とにっこり笑顔で登場して、観客の関心をさらっていく役者がいます。それは実はその場にいるすべての人を受け入れようとしているから、相手の関心をひくことができるという話でした。